なんだろう、俺の発見伝

タイトルは友人の案。

昼飯第一60分片手スマホ書き

男は荒山豪太。そう言った。
50絡みの、加齢臭沸き立つ管理職、というのがその男の社会的ポジションだった。家族はいない。
駅前の道路脇に9時過ぎに現れるおでん屋の常連である。
店の机にもたれるように現れては「酒…」と呟いて握りしめていた300円をテーブルの上に話し、ビールを煽り、席に座ることもなくその後すぐ去っていく、他の客からみれば妙な男だった。
会社の同僚には寡黙な人と映っていた。灰のこぼれやすいラッキーストライクを、喧騒極まりない喫煙室で元の一本の姿のまま喫いきる、静かな人。
男自体は、職務はすでに器量をオーバーフローし、伸び代の限界を感じていた。自分に対する興味も失せていき、部下に多くを求めず、口数も減っていた。守るものがなかったため、部下に責任以外全て任せ、上に謝る言葉だけ用意して毎日を過ごしていた。
そのため時には成功もするが失敗も多かった。が、そんなことは男にとってはどうでもよかった。
悩んでいた。
大学時代には周りから書生とあだ名がつくほどに文学青年だったのだが、名前から長じたのか社会の波に揉まれてからなのか、身を包んだスーツからこう、猛々しさ、荒々しさが飛び出る中年となってしまった。
(なぜ、こうなってしまったのか…)
毎回この自問は口元の酒の残滓とともに拭い去る。
あとはただ家に帰るだけ。
趣味という趣味は大学時代にはいろいろあったがもう遠い昔の話だと、男は思っている。
今の地位に就いてからは以前より早く帰ることができたため、帰り道居酒屋を探して歩くことを習慣にしてみたが、結局溜息ばかりが行き交うこのおでん屋に落ち着いた。
(なんのために働いているんだっけな)
心に生まれた隙間を酒で埋めるが、如何せん酒に弱かった。いつもの一杯でフラフラになりながら荒山豪太は帰途に着く。
今日もそうなるはずだった。しかしおでん屋はいつもの時間を過ぎても現れなかった。
男はあるべきはず、もたれるはずの机の位置に佇んだまま困った。
周りの人間は足繁く、どこかを目指して歩いていく。同じようにおでん屋を待つ人間は見当たらなかった。
気恥ずかしさを殺して「ここにこの時間いつも来てたおでん屋知ってます?」と尋ねても「さあ…」「いや〜よくわかんないです」とそこにおでん屋があったことすら知らないような人ばかりだった。
途方にくれた男は最初はイラついていたが、次第に落ち着いてきた。とりあえず今日の一杯が飲めれば構わない。そう考えた。
普段歩かない道を少し歩いて、大衆居酒屋を見つけ、そこに入った。